「交通事故の患者さんが窓口で一番驚かれるのは、やはりお支払いの金額ですね」。そう語るのは、長年地域医療を支える総合病院の医事課で働くCさんです。病院の事務スタッフの視点から見ると、交通事故の医療費立て替えを巡る人間模様は非常に複雑です。多くの患者さんは、加害者側の保険会社が裏で全てをコントロールしていると思われがちですが、実際には病院と保険会社の間に直接の契約関係はないことが多いため、最終的な支払い責任は「診察を受けた本人」にあるというのが法的な現実です。Cさんのもとには、事故当日に財布一つ持たずに運ばれてきた患者さんが、数万円の請求を見て絶句したり、激昂したりする場面が日常的にあります。「なぜ被害者が払わなければならないのか」という問いに対し、事務スタッフとしては「保険会社からの支払い保証が届くまでは、ルールとして本人請求にするしかない」という、心苦しい説明を繰り返すことになります。特にトラブルになりやすいのが、自由診療における「点数単価」の違いです。患者さんの中には、後で自分の保険会社の明細を見て「なぜ健康保険の時より高いのか」と詰め寄る方もいます。しかし、病院側としては交通事故による高度な検査や、詳細な警察用診断書の作成には多大なリソースを割いているため、自由診療としての価格設定を維持せざるを得ない事情があります。また、立て替えを拒否してそのまま帰宅しようとする患者さんもいますが、これは病院にとっては「未収金」という大きな経営リスクになります。Cさんによれば、最もスムーズなのは、事故直後に保険会社の担当者名を病院に伝え、保険会社から病院へ電話一本入れてもらうことだと言います。それさえあれば、初診日であっても立て替えを免除できるケースもあるからです。また、最近増えているのが、クレジットカードの限度額オーバーによる支払い不能です。高額なMRI検査などが重なると、立て替え額が予想を超え、決済が通らなくなるのです。このような現実を知っているからこそ、病院側も「自賠責保険への直接請求」や「仮払金制度」の案内など、患者の負担を減らすための情報提供を心がけていますが、全ての病院がそこまで手厚いわけではありません。被害者の方には、病院を「敵」として見るのではなく、同じく事故の事務処理に奔走するパートナーとして捉え、支払いについての不安を早めに正直に話してほしい、とCさんは語ります。立て替えという行為は、医療機関と患者の信頼関係の上に成り立っている、緊急避難的な措置なのだという側面が、現場の言葉からは浮かび上がってきます。