都内のIT企業で働く佐藤さん(42歳)は、ある月曜日の朝、ベッドから起き上がろうとして体をひねった瞬間、左の胸に「ズキッ」という鋭い痛みが走るのを感じました。思わず動きを止めると痛みは和らぎましたが、深呼吸をしたり、咳をしたりするたびに、同じ場所に電気が走るような痛みが繰り返されました。心臓のあたりが痛むため、佐藤さんの頭をよぎったのは「心筋梗塞かもしれない」という恐怖でした。その日は仕事を休み、不安な気持ちを抱えたまま、循環器内科を受診しました。心電図やレントゲン、血液検査など、一通りの検査を受けましたが、医師から告げられたのは「心臓には特に異常は見当たりませんね」という言葉でした。ホッと胸をなでおろす一方で、「では、この痛みは何なのだろう?」という新たな疑問が湧き上がりました。医師は、佐藤さんの痛みの特徴、つまり「特定の動作で誘発される鋭い痛み」である点に着目し、「肋間神経痛の可能性が高いですね。一度、整形外科で診てもらうといいですよ」とアドバイスをくれました。翌日、紹介された整形外科を訪れると、医師は胸の周りを丁寧に触診し、痛みが出るポイントを特定しました。そして、長時間のデスクワークによる姿勢の悪さや、最近のプロジェクトで溜まっていたストレスが引き金となり、肋骨に沿って走る神経が刺激されて痛みが出ているのだろう、と診断を下しました。病名がはっきりと「肋間神経痛」だと分かったことで、佐藤さんの心はすっと軽くなりました。治療としては、痛み止めの飲み薬と湿布が処方され、猫背にならないように意識することや、仕事の合間にストレッチを取り入れることなどの生活指導を受けました。数日後、薬とストレッチの効果で、あれほど気になっていた鋭い痛みは徐々に和らいでいきました。佐藤さんのケースは、胸の痛みイコール心臓の病気ではないこと、そして痛みの特徴を正しく把握し、適切な診療科を選ぶことの重要性を教えてくれます。一つの科で異常がないと言われても諦めず、多角的な視点を持つことが、原因不明の痛みからの解放に繋がるのです。
彼の湿疹は免疫低下のサイン。風邪後の不調物語
広告代理店で働く田中さん(38歳)は、この数ヶ月、大きなプロジェクトのリーダーとして多忙な日々を送っていました。連日の残業と、週末も返上しての仕事。彼の体は、気づかぬうちに疲労の限界に達していました。そんな折、まんまと流行りの風邪をひいてしまい、一週間ほど会社を休むことになりました。幸い、風邪自体は薬を飲んで安静にしているうちになんとか回復。しかし、彼を待っていたのは、予期せぬ第二の不調でした。熱が下がり、そろそろ職場復帰を考えていた矢先、お腹や背中に赤いポツポツとした湿疹が現れ始めたのです。最初は気にも留めませんでしたが、湿疹は日に日に腕や足にまで広がり、かゆみも伴うようになりました。ただでさえ風邪で体力を消耗していた田中さんにとって、この新たな症状は精神的にも大きな打撃でした。「仕事に穴を開けているのに、まだ不調が続くのか」。焦りと不安が、彼の心を蝕んでいきました。見かねた妻の勧めで、彼はかかりつけの内科を受診しました。医師は田中さんの全身を診察し、多忙だった生活状況を詳しく聞いた上で、こう告げました。「これは、風邪そのものというより、極度の疲労による免疫力の低下が根本的な原因でしょう。体が弱っている時にウイルス感染が引き金となり、皮膚のバリア機能が乱れて湿疹が出やすくなっている状態です」。医師は、薬疹の可能性も否定できないとしつつも、まずは体の抵抗力を回復させることが先決だと強調しました。処方されたのは、かゆみを抑える薬と共に、「とにかく、あと数日はしっかり休んでください」という、何よりも重要なアドバイスでした。田中さんは、この診断にハッとさせられました。これまで自分の体を過信し、無理を重ねてきたことへの、体からの警告だったのだと。彼は医師の言葉に従い、仕事のことは一旦忘れ、十分な睡眠と栄養のある食事を摂ることに専念しました。すると、心身の回復と共に、あれほどしつこかった湿疹も徐々に引いていったのです。この一件は、田中さんにとって、健康のありがたさと、自身の働き方を見直す大きなきっかけとなりました。
ただの湿疹と違う?風邪の後に注意したい皮膚症状
風邪の治りかけに出る湿疹の多くは、ウイルスへの免疫反応による一過性のものや、軽い薬疹であり、数日で自然に軽快します。しかし、中には、より注意深い観察が必要な、あるいは緊急の対応を要する危険な皮膚症状が隠れている可能性もゼロではありません。大人が風邪の後に経験する皮膚症状で、特に警戒すべきいくつかのサインを知っておくことは、万が一の事態に備える上で非常に重要です。まず、注意したいのが「帯状疱疹」です。これは、子供の頃にかかった水ぼうそうのウイルスが、体力が落ちた時に再活性化して起こる病気です。体の左右どちらか片側の神経に沿って、ピリピリとした痛みを伴う赤い発疹と水ぶくれが帯状に現れるのが特徴です。風邪による免疫力低下は、まさに帯状疱疹の引き金となりやすく、発疹が出る数日前から神経痛のような痛みが先行することもあります。早期に抗ウイルス薬による治療を開始しないと、激しい痛みが長く続く後遺症(帯状疱疹後神経痛)を残すことがあるため、疑わしい場合はすぐに皮膚科を受診する必要があります。次に、最も警戒しなければならないのが、重症型の薬疹です。代表的なものに「スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)」や「中毒性表皮壊死融解症(TEN)」があります。これらは、通常の薬疹とは異なり、38度以上の高熱と共に、唇や口の中、目の粘膜がただれたり、全身に広がる紅斑や水ぶくれ、皮膚の剥がれといった激しい症状を伴います。命に関わる非常に危険な状態で、発症頻度は極めて稀ですが、風邪薬が原因となることも報告されています。もし、湿疹と共に高熱や粘膜の異常が見られた場合は、様子を見ることなく、夜間や休日であっても救急外来を受診してください。このように、ただの湿疹と片付けられないケースも存在します。発疹の状態、広がり方、そして皮膚以外の全身症状をよく観察し、「いつもと違う」「様子がおかしい」と感じたら、迷わず専門医の判断を仰ぐことが、自分の身を守るための鉄則です。
三叉神経痛の激痛、何科へ?正しい診療科の選び方
ある日突然、顔の片側に、まるで電気が走るような、あるいは針で刺されるような、耐え難いほどの激しい痛みが数秒間襲ってくる。食事、歯磨き、洗顔、さらには会話や、ただ風が顔に当たるだけで誘発されるその痛み。もし、このような症状に心当たりがあれば、それは「三叉神経痛(さんさしんけいつう)」かもしれません。この病気は、顔の感覚を脳に伝える三叉神経が、何らかの原因で刺激されることで発症します。この激痛に襲われた時、多くの人がパニックになり、「一体、何科を受診すればいいのか?」と途方に暮れてしまいます。三叉神経痛の診断と治療を専門的に行う診療科は、主に「脳神経外科」と「神経内科」です。まず「脳神経外科」は、三叉神経痛の最も一般的な原因である「神経血管圧迫」、つまり脳の血管が三叉神経を圧迫している状態を、画像診断(MRIなど)で特定し、根本的な治療法である手術(微小血管減圧術)を行うことを専門としています。手術による根治を目指したい場合や、薬物療法で効果が得られない場合の最終的な頼りとなる診療科です。一方、「神経内科」は、神経系全般の病気を内科的に診断・治療する専門家です。詳細な問診と神経学的診察を通じて、三叉神経痛の診断を行い、まずは薬物療法による痛みのコントロールを目指します。脳腫瘍や多発性硬化症など、他の神経疾患が原因で三叉神経痛が起きている場合(症候性三叉神経痛)の鑑別診断にも長けています。また、「ペインクリニック」も選択肢の一つです。痛みの治療を専門とするこの科では、薬物療法に加えて、痛みを伝える神経の働きを一時的に麻痺させる「神経ブロック注射」といった、より専門的な痛みの緩和治療を受けることができます。最初にどこを受診すべきか迷った場合は、まずは薬物療法から始められる神経内科、あるいは総合的な診断が可能な脳神経外科のどちらかを受診するのが一般的です。その上で、治療方針に応じて各科が連携していくことになります。