本事例は、ハイキング中に知らずにスズメバチの地中の巣を踏んでしまい、合計10箇所以上を刺された45歳の男性、佐藤さん(仮名)のケースです。佐藤さんは受傷直後、激しい痛みに襲われながらも自力で下山しようとしましたが、5分もしないうちに全身の震えと、視界が白くなるような立ちくらみに見舞われました。同行者が即座に119番通報し、ドクターヘリによって救急搬送されました。搬送時の佐藤さんの血圧は80/50mmHgと著しく低く、アナフィラキシーショックの状態でした。機内および救急外来では、速やかにアドレナリンの筋肉注射が行われ、多量の輸液による血圧維持が図られました。この事例において特筆すべきは、アレルギー反応を脱した後に現れた「毒性反応」への対応です。佐藤さんのように多数の箇所を刺された場合、蜂毒に含まれる成分が直接内臓にダメージを与えます。血液検査では、筋肉の細胞が壊れることで放出されるCK(クレアチニンキナーゼ)の数値が異常に上昇し、急性横紋筋融解症の兆候が見られました。また、腎機能を示す数値も悪化し、放置すれば腎不全に至る危険がありました。このため、佐藤さんは集中治療室にて3日間の全身管理と、大量の点滴による腎保護療法を受けることになりました。結果として、迅速な初期対応と、病院での継続的なモニタリングのおかげで、佐藤さんは1週間後に無事退院することができましたが、もし「アレルギーはないから大丈夫」と過信して放置していたら、臓器不全による取り返しのつかない結果を招いていたでしょう。この事例研究が私たちに教える教訓は、蜂刺されの危険性は「アレルギー」と「直接毒性」の両面から評価しなければならないという点です。1、2箇所の刺傷であればアレルギーが主な関心事となりますが、多数箇所を刺された場合は、たとえアレルギー体質でなくても、毒そのものの強さによって全身の状態が崩壊することがあります。蜂に刺された際、「何箇所刺されたか」は、病院へ行くべきか、そして入院が必要かを見極める極めて重要な客観的データとなります。多発刺傷は、それ自体が救急事態であることを認識しておく必要があります。
スズメバチによる集団攻撃を受けた際の救急搬送と入院加療の事例研究