あれは仕事の繁忙期が続き、心身ともに限界を感じていたある朝のことでした。うがいをしようと洗面台の鏡に向かい、何気なく喉の奥を覗き込んだ私は、自分の目を疑いました。喉の壁に、まるで真珠のような光沢を持った小さな水ぶくれがいくつも点在していたのです。咄嗟に体温を測りましたが、36度4分の平熱。喉に少しイガイガする違和感はあるものの、風邪を引いたときのあの嫌な倦怠感は全くありませんでした。ネットで検索すると「喉のガン」や「重い感染症」といった恐ろしい言葉ばかりが目に飛び込み、私の不安はピークに達しました。それからの数日間は、食事のたびにその水ぶくれが気になり、食べ物を飲み込む瞬間に「今、あそこに触れたのではないか」と神経質になり、味も分からなくなってしまいました。ついには夜も眠れなくなり、意を決して近所の耳鼻咽喉科を受診しました。診察室で医師に自分の恐怖をまくし立てると、先生は穏やかに笑いながら「一度詳しく診てみましょうね」と言い、細いファイバースコープを鼻から通してくれました。モニターに映し出された自分の喉の画像は、確かにボコボコとしていましたが、医師の説明は意外なものでした。「これは水ぶくれではなく、咽頭濾胞といって、喉の免疫組織が頑張っている証拠ですよ。最近、お疲れだったり空気が乾燥していたりしませんでしたか?」その言葉を聞いた瞬間、あんなに喉に張り付いていた不安が、文字通り霧が晴れるように消えていきました。結局、私は病気ではなく、過労と乾燥によって喉の防御システムが過敏になっていただけだったのです。処方されたのは炎症を抑えるうがい薬だけで、先生からは「まずはしっかり寝て、部屋の加湿をしてください」というシンプルなアドバイスをいただきました。帰り道、あんなに重かった足取りが驚くほど軽くなっていることに気づきました。今回の経験で痛感したのは、自分の体の異変に対して「主観」だけで判断することの危うさです。知識がないからこそ悪い方へばかり考えてしまい、そのストレス自体がさらに喉の違和感を強めていたという皮肉な循環の中に私はいたのです。あれから私は、加湿器を新調し、毎日こまめに水分を摂ることを習慣にしています。喉の奥に再びあの隆起を見つけることもありますが、今は「ああ、私の体は今も一生懸命戦ってくれているんだな」と前向きに捉えることができるようになりました。もし今、同じように喉の異変に怯えている大人がいるなら、伝えたいです。一人で悩み、スマホの画面と睨めっこするよりも、たった5分の診察を受ける勇気が、あなたを地獄のような不安から救い出してくれるということを。健康は、正しい知識と、時には専門家の言葉に頼るゆとりから作られるものなのだと、身をもって学んだ出来事でした。
鏡を見て驚いた喉の奥の水ぶくれと熱なしの不調を乗り越えた私の体験記