「救急外来において、蜂刺されの患者さんが運ばれてくる時は、常に緊張が走ります」。そう語るのは、長年救命救急の最前線に立つ田中医師です。田中医師によれば、蜂に刺されて病院へ運ばれてくるケースには、2つの明確なパターンがあると言います。1つは、刺された直後から顔色が真っ青になり、血圧が測れないほどのショック状態で運ばれてくる緊急例。もう1つは、数時間経ってから「だんだん腫れてきたけれど大丈夫でしょうか」と不安な表情で来院される相談例です。救急医の視点から見て、最も恐ろしいのは前者ですが、後者の中にも見逃してはいけないリスクが隠れていることがあります。田中医師は、患者さんに必ずチェックしてほしい「重症サイン」として、呼吸の音の変化を挙げます。喉の奥に違和感がある、声が掠れてきた、あるいは息を吸う時にヒューヒューという音が漏れる場合、これは気道浮腫によって窒息の危険が迫っているサインです。この状態になると、数分で意識を失うこともあるため、病院選びで迷っている暇はありません。また、田中医師は、一見元気そうに見える患者さんに対しても、ある重要なアドバイスを行います。「刺された直後の反応が軽くても、数時間後に再びアレルギー症状がぶり返す『二相性反応』という現象があります。そのため、一度は病院で経過を観察し、数日間は1人で過ごさないようにすることが大切です」と。病院を受診すべき最大の理由は、専門家によるバイタルサインのモニタリングと、万が一の際の気道確保や点滴治療が受けられる点にあります。特に、スズメバチなどの毒性が強い蜂に刺された場合、アレルギーだけでなく、毒そのものの作用で腎臓の機能が低下したり、肝障害が起きたりすることもあります。インタビューの最後、田中医師はこう締めくくりました。「蜂に刺されたとき、大げさだと思われても構いません。結果的に何ともなければそれが一番の成功です。しかし、運悪く重症化した際、病院にいなければ手遅れになる可能性があります。自分の直感を信じて、少しでもおかしいと思ったら医療のリソースを頼ってください」。現場の医師の言葉は重く、私たちの「受診への迷い」を断ち切るための、何よりの判断基準となります。
救急医が語る蜂刺されの現場と一刻を争う重症サインの見極め方