働き盛りの四十代、五十代にとって、RSウイルスは「自分がかかっても大したことはない病気」かもしれません。しかし、その認識は、自分の親世代にとっては通用しない可能性があります。高齢者、特に六十五歳以上の方や、心臓や肺に持病を持つ方にとって、RSウイルスはインフルエンザウイルスにも匹敵するほど危険な病原体となり得るのです。健常な成人がRSウイルスに感染すると、多くは鼻風邪程度の症状で済みます。しかし、加齢と共に免疫機能は少しずつ低下していきます。若い頃なら簡単に撃退できたはずのウイルスが、高齢者の体の中では容易に増殖し、気管支炎や肺炎といった下気道感染症を引き起こすことがあります。特に、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や喘息、慢性心不全といった基礎疾患があると、RSウイルス感染をきっかけに持病が急激に悪化し、入院や集中治療が必要となるリスクが格段に高まります。実際に、米国では毎年多くの高齢者がRSウイルスに関連した肺炎で入院し、死亡するケースも報告されています。問題なのは、高齢者のRSウイルス感染症が見過ごされやすいことです。症状が非典型的であったり、いつもの風邪や持病の悪化と区別がつかなかったりするため、適切な診断が遅れがちになります。冬場に高齢の親が風邪をこじらせ、咳や痰がひどくなり、呼吸が苦しそうにしている場合、それは単なる風邪ではなく、RSウイルスによる肺炎かもしれません。私たち子供世代ができることは、まず、このリスクを正しく認識することです。そして、自分たちが感染源にならないよう、日頃から手洗いや咳エチケットを徹底すること。もし自分が風邪をひいたら、高齢の親との接触は極力避けるという配慮が必要です。親の体調に異変を感じたら、早めに医療機関へ連れて行くことも重要です。大人のRSウイルスは、自分だけの問題ではなく、大切な家族の健康をも左右する問題なのだと心に留めておく必要があります。