仕事終わりの冷えたビールと、その後に続くウイスキーのロックは、私にとって1日の疲れを癒やす唯一無宜の至福の時間でした。40代半ばを過ぎた頃、自分では健康に自信があり、多少の深酒をしても翌朝にはシャキッと仕事に向かえる自分の体力を過信していました。ところが、ある年の健康診断の結果が私の人生を大きく変えることになりました。判定欄に並んだ「D2」という要精密検査の文字。数値を見ると、γ-GTPが500を超え、ASTやALTも基準値を大きく逸脱していました。医師の前に座ったとき、私は「最近少し飲みすぎただけで、しばらく休めば戻りますよね」と軽い気持ちで尋ねましたが、返ってきたのは「あなたの肝臓はすでに悲鳴を上げています。このままではアルコール性肝硬変へ一直線です」という厳しい宣告でした。腹部エコーで見せられた私の肝臓は、正常なそれとは異なり、脂肪で白く濁り、表面にはわずかな凹凸が見え始めていました。病名はアルコール性脂肪肝から肝線維症への移行期。ショックで頭が真っ白になりましたが、そこから私の断酒生活が始まりました。最初の1週間は、これまで当たり前だった「夜の習慣」がなくなることによる猛烈な喪失感と、イライラに悩まされました。ノンアルコール飲料で誤魔化そうとしても、脳が本物のアルコールを欲して暴れるような感覚です。しかし、2週間が過ぎた頃から、驚くべき変化が体に現れました。まず、朝の目覚めが劇的に良くなりました。あんなに重かった頭が嘘のように軽く、日中の集中力が格段に向上したのです。さらに、夕方になるとパンパンに張っていた足のむくみが解消され、肌のツヤも戻ってきました。1ヶ月後の再検査では、数値は半分以下に下がり、医師からも「このまま続ければ肝臓は再生します」と太鼓判を押されました。この経験を通じて痛感したのは、お酒を飲んでいる時の自分は「肝臓の犠牲の上に成り立つ偽りの元気」に頼っていたということです。アルコール性肝障害は、自覚症状がないからこそ恐ろしく、自分を律することが何よりも難しい病気です。しかし、一度踏みとどまって自分の内臓と対話すれば、体は驚くほどの回復力で応えてくれます。今、私はお酒を飲まない夜の静けさを楽しみ、本当の意味での健康を取り戻した喜びを噛み締めています。あの日、病院で受けた宣告は、私に「残りの人生をどう生きるか」を問いかけてくれた、体からの最後の慈悲だったのだと今は確信しています。