都内のデザイン会社に勤めるAさん(28歳、女性)が、体に異変を感じ始めたのは、大規模なプロジェクトが一段落した直後のことだった。疲れからくる風邪だろうと、彼女は軽く考えていた。最初の症状は微熱と全身の倦怠感。しかし、数日後から乾いた咳が出始め、それが彼女の長い闘いの始まりとなった。Aさんの咳は日に日にひどくなり、特に夜間の咳き込みは彼女の睡眠を完全に奪った。日中も、クライアントとの打ち合わせ中に突然咳の発作に見舞われ、話が中断してしまうことも一度や二度ではなかった。周囲に迷惑をかけているという罪悪感と、一向に治らない症状への焦りから、彼女は精神的にも追い詰められていった。発症から二週間後、同僚に強く勧められてようやく呼吸器内科を受診。詳細な問診と検査の結果、「マイコプラズマ肺炎」と診断された。原因が特定されたことに安堵する一方で、Aさんは医師から衝撃的な事実を告げられる。近年、特に若年層で、最初に処方されることが多いマクロライド系の抗菌薬が効かない「マクロライド耐性マイコプラズマ」が増えているというのだ。Aさんにはまずマクロライド系の抗菌薬が処方されたが、医師の懸念通り、5日間服用しても症状はほとんど改善しなかった。咳は依然として激しく、絶望的な気持ちになったという。再受診し、状況を伝えると、医師は耐性菌の可能性が高いと判断。次に、テトラサイクリン系という別の系統の抗菌薬に変更された。この薬がAさんには劇的に効いた。服用を始めて2日目には、夜の咳が明らかに減り、久しぶりに朝まで眠ることができた。徐々に咳の頻度は減り、一週間後には日常生活に支障がないレベルまで回復した。Aさんは語る。「まさか薬が効かないことがあるなんて、夢にも思いませんでした。最初の薬で治らなかった時は、本当にこのまま咳が止まらないんじゃないかと怖かったです。医師の的確な判断と、薬の変更がなければ、もっと長く苦しんでいたと思います。たかが咳と侮らず、症状が長引くときは専門医に相談すること、そして処方された薬で改善しない場合も、正直に医師に伝えることがいかに重要か身をもって知りました」。Aさんのケースは、現代のマイコプラズマ肺炎治療が直面する「耐性菌」という問題を浮き彫りにする貴重な事例である。
ある患者のマイコプラズマ肺炎との闘病記録