二週間以上、私の体から咳が消えませんでした。始まりは、よくある風邪のような症状でした。喉のイガイガとした痛みと、少しの鼻水。熱も三十七度台前半で、仕事も休むほどではない。私は市販の風邪薬を飲み、普段通りに生活していました。しかし、他の症状が治まっても、咳だけがしつこく残ったのです。それは痰の絡む湿った咳で、一度出始めると、まるで肺の底から絞り出すようにゴホゴホと続き、しまいには胸が痛くなるほどでした。特に夜中や明け方にひどくなり、咳き込んで目が覚めてしまうこともしばしば。日中も、会議中や電車の中といった静かな場所で突然咳き込んでしまい、周りの視線を気にしていました。さすがにおかしいと思い、近所の呼吸器内科を受診することに。医師に症状の経過を詳しく話すと、「最近、お子さんやご家族に風邪症状の方はいませんでしたか」と聞かれました。そういえば、一ヶ月ほど前に三歳の娘が熱を出し、ひどい咳をしていたことを思い出しました。小児科では「風邪でしょう」と言われていましたが、今思えば、あれが原因だったのかもしれません。医師は「大人の長引く咳の原因として、RSウイルスや百日咳などが考えられます」と言い、検査をすることに。結果、私はRSウイルスに感染していることが判明したのです。「え、RSって子供の病気じゃないんですか」。思わずそう口にすると、医師は「大人は風邪症状で済むことが多いですが、咳だけがこのように長く続くことは珍しくないんですよ」と教えてくれました。特効薬はないため、咳を和らげる薬を処方してもらい、あとは自然に治るのを待つしかありません。まさか自分が、と驚きましたが、原因が分かったことで少しだけ気持ちが楽になりました。子供の風邪は、大人にもうつる。その当たり前の事実を、身をもって痛感した出来事でした。