ストレスがものもらいの原因になる、という話は、単なる経験則や迷信ではありません。そこには、心と体が密接に連携する「心身相関」のメカニズムが深く関わっています。ストレス、特に慢性的で長期にわたるストレスは、私たちの体内で様々な化学的変化を引き起こし、免疫という精密な防御システムに大きな影響を与えます。その中心的な役割を担うのが、「コルチゾール」という副腎皮質から分泌されるホルモンです。コルチゾールは「ストレスホルモン」とも呼ばれ、体がストレスに対応するために分泌されます。短期的には血糖値を上げたり、抗炎症作用を発揮したりと、体を守る働きをします。しかし、ストレスが長期間続くと、コルチゾールが過剰に分泌され続ける状態に陥ります。この状態が、免疫システムにとってはマイナスに作用するのです。過剰なコルチゾールは、ウイルスや細菌と戦うリンパ球などの免疫細胞の働きを抑制してしまいます。これにより、体全体の抵抗力が低下し、普段は問題にならないような皮膚の常在菌(黄色ブドウ球菌など)に対しても無防備な状態になり、細菌感染による「麦粒腫」が発症しやすくなります。さらに、ストレスは自律神経のバランスも乱します。交感神経が優位な緊張状態が続くと、血管が収縮して血行が悪化します。まぶたにあるマイボーム腺は、目の表面を保護する油分を分泌する重要な器官ですが、血行不良やホルモンバランスの乱れは、この油分の性質を変化させ、粘度を高くしてしまうことがあります。その結果、分泌腺の出口が詰まりやすくなり、脂が溜まってしこりを形成する「霰粒腫」の引き金となるのです。まぶたは皮膚が非常に薄く、外部からの刺激にさらされやすいデリケートな部位です。そのため、全身の免疫力が低下した際に、その影響が真っ先に現れやすい場所の一つと言えます。まぶたの腫れや痛みは、局所的なトラブルであると同時に、私たちの心身が発するストレス過多のシグナルでもあるのです。
科学的に見るストレスとまぶたの炎症