風邪の治療で服用した薬が、思わぬ形で皮膚トラブルを引き起こすことがあります。それが「薬疹(やくしん)」です。風邪が治りかけた頃に現れる大人の湿疹は、この薬疹の可能性を常に念頭に置く必要があります。薬疹とは、内服薬や注射薬などによって引き起こされる、アレルギー性の皮膚症状の総称です。風邪の際に処方されることが多い、解熱鎮痛剤(NSAIDsなど)や、細菌感染の合併を防ぐための抗生物質(ペニシリン系、セフェム系など)、咳止めといった様々な薬が原因となり得ます。薬疹のやっかいな点は、その発症タイミングが一定ではないことです。薬を飲み始めてすぐに症状が出ることもあれば、数日後、あるいは全ての薬を飲み終わってから数日経ってから現れることもあります。そのため、患者さん自身が薬と湿疹を結びつけて考えるのが難しい場合も少なくありません。症状の現れ方も多様で、細かい赤い発疹が全身に広がる「播種状紅斑丘疹型」が最も一般的ですが、その他にも蕁麻疹のような膨らみが出たり、特定の場所に円形の紅斑ができる「固定薬疹」というタイプもあります。ほとんどの薬疹は、原因となった薬を中止し、かゆみや炎症を抑える治療を行えば軽快します。しかし、ごく稀に、高熱や目の充血、唇や口内のただれを伴い、皮膚が広範囲にわたって剥がれ落ちるような重篤な薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群など)に移行することもあります。これは命に関わる危険な状態であり、早期の入院治療が必須です。もし、風邪薬を服用中、あるいは服用後に湿疹が出た場合は、自己判断で様子を見るのは危険です。すぐに薬の服用を中止し、処方を受けた医療機関に連絡するか、皮膚科を受診してください。その際には、いつから、どの薬を飲んでいたかがわかるように、お薬手帳や薬の説明書を持参することが、原因究明と適切な治療への重要な手がかりとなります。