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医師に聞く大人の手足口病のリスクと注意点
今回は感染症を専門とする医師に、大人の手足口病について詳しくお話を伺いました。先生、大人が手足口病にかかると重症化しやすいというのは本当でしょうか。はい、その通りです。子供の頃に手足口病の原因となる様々なウイルスに感染して免疫を獲得する機会がなかった大人が、初めて感染すると、体が過剰に反応してしまい、症状が強く出やすい傾向があります。特に、高熱や口内炎の激しい痛みは、多くの大人の患者さんに見られる特徴です。単なる夏風邪と侮っていると、その辛さに驚くことになります。大人がかかる上で、特に注意すべき合併症はありますか。手足口病はほとんどの場合、自然に回復する病気ですが、ごく稀に重篤な合併症を引き起こすことがあります。代表的なものが、無菌性髄膜炎です。これは、ウイルスが脳を包む髄膜にまで達して炎症を起こす病気で、激しい頭痛、繰り返す嘔吐、首の後ろが硬直するといった症状が現れます。また、さらに稀ですが、急性脳炎や心筋炎といった、命に関わる状態に陥ることもあります。高熱が続く、意識がもうろうとする、何度も吐く、頭を激しく痛がる、ぐったりして動かない、といった症状が見られた場合は、夜間や休日であっても、ためらわずに救急医療機関を受診してください。これらのサインを見逃さないことが非常に重要です。他の病気との見分け方はありますか。高熱と喉の痛みから、最初はヘルパンギーナや溶連菌感染症と間違われることがあります。ヘルパンギーナも同じ夏風邪の一種ですが、発疹は主に口の中だけで、手足には出ません。溶連菌の場合は、喉の痛みに加えて舌がイチゴのようにブツブツになる「いちご舌」が見られることがあり、抗菌薬による治療が必要です。最終的な診断は医師が行いますが、手足にも発疹が出てきた場合は、手足口病の可能性が非常に高いと言えるでしょう。最後に、読者へのメッセージをお願いします。お子さんが手足口病になったら、自分も感染する可能性があるという意識を持ち、手洗いを徹底してください。そして、もし感染してしまったら、特効薬はないので、とにかく休養と水分補給に専念することです。その辛さは永遠には続きません。必ず回復しますので、焦らずに乗り切ってください。
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市販の制汗剤、効果的な選び方と使い方
病院での専門的な治療を考える前にまずは自分でできる対策として、市販の「制汗剤・デオドラント剤」を上手に活用したいと考える人も多いでしょう。ドラッグストアには多種多様な製品が並んでいますが、その効果を最大限に引き出すためには自分の汗のレベルや悩みに合った製品を正しく選びそして正しく使うことが非常に重要です。まず「選び方」のポイントはその製品の「有効成分」に注目することです。脇汗を根本的に「抑えたい」のであれば「制汗成分」が含まれている製品を選ぶ必要があります。代表的な制汗成分が「クロルヒドロキシアルミニウム」や「焼ミョウバン」です。これらの成分は汗腺の出口にフタのようなものを作って汗そのものが出てくるのを物理的にブロックする働きがあります。一方汗の量はそれほどでもないけれど「ニオイ」が気になるという場合は「殺菌成分」や「消臭成分」が配合された製品が適しています。殺菌成分(イソプロピルメチルフェノールなど)はニオイの原因となる皮膚の常在菌の増殖を抑え、消臭成分(緑茶エキスなど)は発生してしまったニオイを中和する働きがあります。次に最も重要なのが「使い方」です。制汗剤の効果を最大限に引き出すための最大のコツは「汗をかく前に清潔で乾いた肌に塗る」ことです。多くの人が汗をかいた後慌てて日中にスプレーなどをしていますがこれではあまり効果は期待できません。汗や皮脂で有効成分が流されてしまい肌にしっかりと密着しないからです。最も効果的なタイミングは「夜お風呂上がりの清潔でよく乾いた脇に塗る」ことです。睡眠中は汗腺の活動が比較的穏やかであるため有効成分が汗腺の出口にしっかりと浸透しフタを形成することができます。そして翌朝もう一度軽く塗り直すと日中の活動時間中高い制汗効果が持続します。製品のタイプ(ロールオン、スティック、クリームなど)は自分の肌質や使いやすさで選ぶと良いでしょう。
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脇汗の悩みと精神的なストレス
ひどい脇汗がもたらす苦しみは単に「汗が出て服が濡れる」という物理的な不快感だけにとどまりません。むしろそれ以上に深刻なのが他人の視線を過剰に意識してしまうことから生まれる「精神的なストレス」や「コンプレックス」です。この見えない心の負担こそが多汗症に悩む人々を最も深くそして長く苦しめているのかもしれません。グレーや水色といった汗ジミが目立ちやすい色の服は選ぶことさえできない。夏場でもカーディガンやジャケットを手放せず本当は着たいおしゃれな服を我慢している。会議でのプレゼンテーションや好きな人とのデートといった大切な場面で「汗ジミができていないか」ということばかりが気になり本来集中すべきことに集中できない。腕を上げるのが怖くて電車やバスのつり革が持てない。友人との距離が近くなるのが不安で人付き合いが億劫になってしまう。これらは脇汗に悩む多くの人が日常的に経験している切実な悩みです。そして事態をさらに悪化させるのが「汗をかいていることを意識すればするほどさらに汗が出てしまう」という精神性発汗の負のスパイラルです。「汗をかいちゃダメだ」という強いプレッシャーや不安感が交感神経を刺激し結果的に汗の分泌をさらに促進させてしまうのです。この悪循環は自分の意思だけではなかなか断ち切ることができません。この悩みから抜け出すための第一歩は「これは自分の性格や努力不足のせいではない。治療が可能な医学的なコンディションなのだ」と正しく認識することです。そしてその悩みを一人で抱え込まず専門家である医師に打ち明ける勇気を持つことです。医療機関を受診し適切な治療を受けることで汗そのものをコントロールできるようになればそれは絶大な自信に繋がります。「汗の心配をしなくても良い」という心の解放感はあなたの生活の質を劇的に向上させこれまで諦めていた多くのことに前向きに挑戦するきっかけを与えてくれるはずです。
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朝の一歩目に潜む足底腱膜炎の真実
朝、目覚めてベッドから降り、最初の一歩を踏み出した瞬間に踵へ走る、ガラス片を踏んだかのような鋭い痛み。しばらく歩き続けると不思議と痛みは和らいでいくものの、また長時間座った後や車から降りる際には同じ痛みがぶり返す。これは、かかとの痛みを訴える人の中でも非常に多く見られる「足底腱膜炎(そくていけんまくえん)」の典型的な症状です。足の裏には、踵の骨から足の指の付け根に向かって扇状に広がる、強靭な繊維状の膜「足底腱膜」があります。この組織は、私たちが歩いたり走ったりする際に地面から受ける衝撃を吸収するクッションの役割と、土踏まずのアーチ構造をハンモックのように支える重要な役目を担っています。しかし、この足底腱膜に繰り返し大きな負担がかかると、膜に微細な断裂や炎症が生じ、痛みを引き起こすのです。なぜ特に朝の起床時に痛みが強いのかというと、睡眠中は足首が伸びた状態(底屈位)になり、足底腱膜が縮んで硬くなっているためです。その硬直した状態でいきなり体重をかけることで、強く引き伸ばされて激痛が走るのです。日中に活動していると、足底腱膜が少しずつほぐれて痛みが軽減しますが、根本的な炎症が治ったわけではありません。原因としては、長時間の立ち仕事、急なランニングやジャンプといったスポーツ活動、体重の増加、クッション性の低い靴の着用、さらには加齢による組織の柔軟性の低下などが挙げられます。また、扁平足やハイアーチ(甲高)といった足の構造的な特徴も、足底腱膜への負担を増大させる一因となります。この痛みを単なる疲れと軽視して放置すると、症状が慢性化し、日常生活に大きな支障をきたすだけでなく、痛みをかばう歩き方が原因で膝や腰に二次的な問題を引き起こす可能性もあるため、早期の適切な対応が求められます。
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手足口病の後に起こる爪のトラブル
手足口病の激しい症状がようやく治まり、普段の生活に戻り始めた頃、多くの人が経験するのが「爪の剥がれ」という後遺症です。発症から一ヶ月から二ヶ月ほど経った頃、何の予兆もなく手や足の爪が根元から浮き上がり、自然に剥がれ落ちてしまうのです。この現象は「爪甲脱落症(そうこうだつらくしょう)」と呼ばれ、特に手足口病の原因となるウイルスの中でも、コクサッキーウイルスA6型が流行した年に多く報告されています。初めて経験すると、非常に驚き、何か悪い病気ではないかと不安になるかもしれませんが、これは手足口病の後遺症としては比較的よく見られるもので、過度に心配する必要はありません。なぜ爪が剥がれるのか、その正確なメカニズムはまだ完全には解明されていません。しかし、有力な説としては、手足口病による高熱や強い炎症が、爪を作る組織である「爪母(そうぼ)」の働きを一時的に停止させてしまうためと考えられています。爪母の活動が一時的にストップすることで、その期間に作られるはずだった爪が欠損し、新しく生えてくる爪との間に隙間ができてしまうのです。その結果、古い爪が押し出されるようにして剥がれ落ちます。通常、この爪の剥がれ自体に痛みはありません。爪が浮き上がってきたら、無理に剥がそうとせず、何かに引っかかって剥がれてしまわないように注意しましょう。絆創膏やテープで保護しておくのがおすすめです。自然に剥がれ落ちるのを待つと、その下にはすでに新しい健康な爪が再生されています。すべての爪が生え変わるまでには数ヶ月かかりますが、基本的にはきれいに元通りになります。ただし、剥がれた後の爪が変形したり、痛みや感染の兆候が見られたりする場合は、皮膚科を受診するようにしてください。
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医療機関で行う、ひどい脇汗の専門的な治療法
市販の制汗剤やセルフケアだけではコントロールが難しいひどい脇汗、すなわち「原発性腋窩多汗症」。この悩みに対して医療機関では保険が適用されるものも含め非常に効果的な専門的な治療法が確立されています。一人で悩まず専門医に相談すればあなたのQOL(生活の質)を劇的に改善できる可能性があります。まず現在日本の保険診療で第一選択として推奨されている治療法が二つあります。一つが「外用薬(塗り薬)」です。2020年に登場した「エクロックゲル」や2022年に登場した「ラピフォートワイプ」は汗を出す指令を伝える神経伝達物質(アセチルコリン)の働きを汗腺のレベルでブロックする新しいタイプの塗り薬です。毎日一回脇に塗る(または拭く)だけで汗の量を効果的に抑えることができます。もう一つの非常に効果的な治療法が「ボツリヌス療法(ボトックス注射)」です。これはボツリヌス菌が作り出す天然のタンパク質を脇の皮下に注射する方法です。このタンパク質もアセチルコリンの放出を強力にブロックすることで汗の分泌を数ヶ月間にわたって劇的に抑制します。効果の持続期間は個人差がありますが、おおよそ4ヶ月から9ヶ月程度です。効果が切れれば再度注射が必要となりますが重度の多汗症に対しては保険適用も認められています。これらの保険診療で効果が不十分な場合やより根治的な治療を望む場合には自費診療の選択肢も存在します。その代表が「マイクロ波治療(ミラドライなど)」です。これは皮膚の上からマイクロ波を照射しその熱エネルギーで汗腺そのものを破壊する治療法です。皮膚を切開する必要がなく体への負担が少ないながら半永久的な効果が期待できるとして近年非常に人気が高まっています。その他より確実な効果を求める場合には交感神経を胸部で切断する「胸部交感神経遮断術(ETS)」という手術もありますが代償性発汗(他の部位の汗が増える)という副作用のリスクも伴います。どの治療法が最適かはあなたの症状の重症度やライフスタイルによって異なります。皮膚科や形成外科の専門医とよく相談し納得のいく治療法を選択することが大切です。
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過活動膀胱(OAB)が招く我慢できない尿意
日中のトイレの回数が8回以上と多く特に「急に前触れもなく我慢できないほどの強い尿意(尿意切迫感)」に襲われる。そして時にはトイレまで間に合わずに漏らしてしまうこともある(切迫性尿失禁)。このような症状に悩まされている場合その頻尿の原因は「過活動膀胱(Overactive Bladder: OAB)」である可能性が非常に高いと考えられます。過活動膀胱は40歳以上の男女の8人に1人が罹患しているとされる非常にありふれた病気です。その病態の核心は膀胱にまだ尿が十分に溜まっていないにもかかわらず膀胱の筋肉(排尿筋)が脳からの指令とは関係なく勝手に異常な収縮を起こしてしまうことにあります。この膀胱の「暴走」が突然の強烈な尿意として感じられるのです。過活動膀胱の原因は完全には解明されていませんが加齢に伴う膀胱の神経系の変化や脳卒中やパーキンソン病といった脳と膀胱の間の神経伝達のトラブル、そして男性の場合は前立腺肥大症などが引き金となることが知られています。しかし多くは明らかな基礎疾患がなく発症します。過活動膀胱の診断と治療は主に「泌尿器科」が専門となります。診断のためには症状の詳しい問診や症状の程度を点数化する質問票(OABSS)、そして前述の「排尿日誌」が非常に重要な役割を果たします。治療はまず「行動療法」から始めるのが基本です。具体的には水分摂取のタイミングや量を調整したり利尿作用のあるカフェインやアルコールの摂取を控えたりする「生活指導」。そして骨盤の底にある筋肉を鍛えて尿道を締める力を高める「骨盤底筋体操」。さらに尿意を感じてもすぐにトイレに行かずに5分10分と少しずつ我慢する時間を延ばしていくことで膀胱に尿を溜める習慣をつけ膀胱の容量を広げていく「膀胱訓練」などがあります。これらの行動療法で十分に改善しない場合には「薬物療法」が選択されます。膀胱の異常な収縮を抑える抗コリン薬やβ3作動薬といった内服薬が治療の中心となります。
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免疫反応の副作用?サイトカインと神経過敏
風邪をひいた時に感じる、皮膚の表面の、ヒリヒリ、ピリピリとした痛み。その主な原因は、ウイルスと戦うために、私たちの体が作り出す「サイトカイン」という物質が、引き起こす、一種の“副作用”であると考えられています。サイトカインは、免疫細胞同士が、情報をやり取りするために使う、いわば「伝令役」のタンパク質です。「敵(ウイルス)が侵入したぞ!」「ここに集まれ!」「熱を出して、敵の動きを封じろ!」といった、様々な指令を、体中に伝達します。この、免疫システムの、見事な連携プレーに、不可欠な存在です。特に、ウイルス感染の初期に、重要な役割を果たすのが、「インターフェロン」という種類のサイトカインです。インターフェロンは、ウイルスに感染した細胞が、周囲のまだ感染していない細胞に対して、「ウイルスが来たぞ!防御態勢を整えろ!」という、警告シグナルを発信させ、ウイルスの増殖を、強力に抑制する働きがあります。この働きによって、私たちは、多くのウイルス感染症から、守られているのです。しかし、この、体を守るためのインターフェロンが、時に、私たちの「神経系」にも、影響を及ぼすことがあります。インターフェロンをはじめとする、いくつかのサイトカインには、痛みを感じる神経(知覚神経)を、過敏にさせる作用があることが、分かっています。つまり、神経の「感度」を、異常に高めてしまうのです。その結果、普段であれば、全く痛みとして感じられないような、ごく弱い刺激、例えば、衣服が肌に触れる摩擦や、シーツの感触、あるいは、そよ風が肌をなでるといった、些細な刺激さえもが、脳に「痛み」のシグナルとして、伝えられてしまいます。これが、風邪のひきはじめに、熱はまだ出ていないのに、皮膚の表面だけが、なぜか痛く感じる、という現象の正体です。この状態は、「アロディニア(異痛症)」と呼ばれ、痛みを感じる仕組みそのものが、一時的に、変調をきたしている状態と言えます。この皮膚の痛みは、ウイルスと戦うための、免疫反応が、活発に行われている証拠でもあります。通常は、風邪の回復と共に、サイトカインの産生が収まり、神経の過敏性も、自然と正常に戻っていきます。
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私の終わらない咳がマイコプラズマだった闘病記
全ては、喉の軽いイガイガ感から始まりました。季節の変わり目によくある風邪だろうと、私は完全に油断していました。市販の総合感冒薬を飲めば二、三日で治るはず。しかし、その安易な考えが、その後の長い苦しみの序章だったのです。鼻水や喉の痛みはすぐに消えましたが、入れ替わるようにして咳が出始めました。最初は軽い空咳でしたが、日を追うごとにその激しさは増していきました。それは、まるで何かに取り憑かれたかのような咳でした。一度火が付くと、コンコンコンコンと息つく暇もなく続き、しまいには息が苦しくなって涙目になるほどでした。特にひどかったのが夜間です。布団に入って体が温まると、まるでスイッチが入ったかのように咳の発作が始まり、ほとんど眠ることができませんでした。眠れない日々が続くと、精神的にも追い詰められていきます。日中も、静かなオフィスや電車の中でいつ咳の発作が起きるかという不安に常に苛まれ、咳を我慢しようとすればするほど、余計に咳き込んでしまう悪循環。周囲の「またか」という視線が突き刺さるようで、外出することさえ億劫になっていました。熱は三十七度台前半を行ったり来たりする程度で、体のだるさも我慢できないほどではない。この中途半端な体調が、逆に病院へ行くタイミングを逃させていました。しかし、咳が出始めてから三週間目、ついに限界を感じて呼吸器内科のドアを叩きました。これまでの症状の経過を話すと、医師はすぐにマイコプラズマ肺炎を疑い、胸部レントゲンと血液検査、そして喉の奥をこする迅速検査を行いました。結果は陽性。原因がはっきりした安堵感と、もっと早く来ていればという後悔が入り混じった複雑な気持ちでした。すぐにマクロライド系の抗菌薬が処方され、藁にもすがる思いで服用を開始しました。薬を飲み始めて三日目の朝、夜中に一度も咳で起きなかったことに気づき、涙が出そうになりました。あれほど頑固だった咳が、薬の力で少しずつ鎮まっていく。健康のありがたみを、これほど痛感したことはありません。咳が完全に消えるまでにはさらに二週間ほどかかりましたが、あの暗いトンネルをようやく抜け出すことができました。咳を甘く見てはいけない。それが私の得た何よりの教訓です。
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男性特有の頻尿、前立腺肥大症のサイン
中高年の男性において「夜中に何度もトイレに起きるようになった」「トイレに行ってもスッキリせずすぐまた行きたくなる(残尿感)」「尿の勢いが弱くなった」。これらの症状と共に頻尿に悩まされている場合その原因としてまず疑われるのが加齢に伴って多くの男性が経験する「前立腺肥大症(BPH)」です。前立腺は男性の膀胱の真下にあり尿道を取り囲むように存在するクルミほどの大きさの臓器です。この前立腺が年齢と共に徐々に肥大してくると内側を通る尿道を物理的に圧迫したり膀胱そのものを下から突き上げるように刺激したりして様々な排尿トラブルを引き起こします。前立腺肥大症による頻尿は二つのメカニズムによって説明されます。一つは肥大した前立腺が尿道を圧迫することで尿が出にくくなり排尿後も膀胱内に尿が残ってしまう「残尿」の増加です。膀胱が常に尿で満たされている状態になるためすぐにまた尿意を感じてしまいます。もう一つは肥大した前立腺が膀胱の出口(膀胱頸部)を刺激し続けることで膀胱が過敏になり過活動膀胱と同じような状態になることです。これにより十分に尿が溜まっていなくても強い尿意を感じるようになりトイレの回数が増えてしまうのです。特に夜間頻尿は前立腺肥大症の非常に代表的な症状の一つです。前立腺肥大症の診断と治療は「泌尿器科」が専門です。診察ではまず症状の程度を評価する質問票(国際前立腺症状スコア)に記入し直腸診(肛門から指を入れて前立腺の大きさや硬さを調べる)や超音波検査で前立腺の大きさを測定します。また尿の勢いを測定する「尿流測定検査」や排尿後の残尿量を測定する検査も重要です。治療はまず薬物療法から開始するのが一般的です。尿道の圧迫を緩めて尿を出しやすくする薬(α1遮断薬)や前立腺そのものを小さくする薬(5α還元酵素阻害薬)などが用いられます。薬物療法で十分に改善しない場合や症状が重い場合には内視鏡を使って肥大した前立腺を内側から削り取る「経尿道的前立腺切除術(TURP)」などの手術治療が検討されます。