あれは、肌寒い秋の日のことでした。最初は、軽い喉の痛みと体のだるさから始まりました。いつもの風邪だろうと高をくくり、市販の総合感冒薬を飲んで早めに床につきました。しかし、翌朝になっても体調は一向に良くなりません。それどころか、乾いた咳が出始め、熱も三十八度を超えていました。近所の内科を受診し、風邪と気管支炎だろうということで、抗生物質と咳止めを処方されました。これで良くなるはずだ。そう信じて薬を飲み続けましたが、私の期待は無惨に裏切られました。熱は上がったり下がったりを繰り返すだけで、咳は日に日に悪化の一途をたどったのです。それは、ただの咳ではありませんでした。一度出始めると、息もできないほど激しく咳き込み、まるで肺が飛び出してしまいそうなほどの衝撃が体を襲います。特に夜は地獄でした。横になると咳がひどくなるため、壁に寄りかかって座ったまま、浅い眠りを繰り返すしかありません。体力はみるみるうちに奪われ、食欲もなくなり、一週間で体重は四キロも落ちていました。処方された薬が切れる頃、私は藁にもすがる思いで、呼吸器専門のクリニックの扉を叩きました。これまでの経緯を話すと、医師は私の顔を見て静かに言いました。「マイコプラズマ肺炎が強く疑われますね。前の病院でもらった抗生物質は、この病気には効かない種類です」。そして、マイコプラズマに有効とされる別の種類の抗生物質を処方してくれました。半信半疑でその日の夜から薬を飲み始めると、翌日、驚くべき変化が起きました。あれだけ私を苦しめていた激しい咳の発作が、明らかに軽くなっていたのです。三日も経つ頃には、夜も横になって眠れるようになり、一週間後には、日常生活に支障がないレベルまで回復しました。あの二週間の苦しみは、今思い出しても身震いがします。正しい診断と、適切な薬がいかに重要か。この経験を通じて、私はそれを骨の髄まで思い知らされました。