全ては、喉の軽いイガイガ感から始まりました。季節の変わり目によくある風邪だろうと、私は完全に油断していました。市販の総合感冒薬を飲めば二、三日で治るはず。しかし、その安易な考えが、その後の長い苦しみの序章だったのです。鼻水や喉の痛みはすぐに消えましたが、入れ替わるようにして咳が出始めました。最初は軽い空咳でしたが、日を追うごとにその激しさは増していきました。それは、まるで何かに取り憑かれたかのような咳でした。一度火が付くと、コンコンコンコンと息つく暇もなく続き、しまいには息が苦しくなって涙目になるほどでした。特にひどかったのが夜間です。布団に入って体が温まると、まるでスイッチが入ったかのように咳の発作が始まり、ほとんど眠ることができませんでした。眠れない日々が続くと、精神的にも追い詰められていきます。日中も、静かなオフィスや電車の中でいつ咳の発作が起きるかという不安に常に苛まれ、咳を我慢しようとすればするほど、余計に咳き込んでしまう悪循環。周囲の「またか」という視線が突き刺さるようで、外出することさえ億劫になっていました。熱は三十七度台前半を行ったり来たりする程度で、体のだるさも我慢できないほどではない。この中途半端な体調が、逆に病院へ行くタイミングを逃させていました。しかし、咳が出始めてから三週間目、ついに限界を感じて呼吸器内科のドアを叩きました。これまでの症状の経過を話すと、医師はすぐにマイコプラズマ肺炎を疑い、胸部レントゲンと血液検査、そして喉の奥をこする迅速検査を行いました。結果は陽性。原因がはっきりした安堵感と、もっと早く来ていればという後悔が入り混じった複雑な気持ちでした。すぐにマクロライド系の抗菌薬が処方され、藁にもすがる思いで服用を開始しました。薬を飲み始めて三日目の朝、夜中に一度も咳で起きなかったことに気づき、涙が出そうになりました。あれほど頑固だった咳が、薬の力で少しずつ鎮まっていく。健康のありがたみを、これほど痛感したことはありません。咳が完全に消えるまでにはさらに二週間ほどかかりましたが、あの暗いトンネルをようやく抜け出すことができました。咳を甘く見てはいけない。それが私の得た何よりの教訓です。
私の終わらない咳がマイコプラズマだった闘病記