風邪でもないのに、コンコンと乾いた咳だけが止まらない。特に夜中や明け方に激しく咳き込んで目が覚めてしまう。熱は微熱程度で体もそこまで辛くはないのに、とにかくこの咳だけが二週間以上も続いている。もし、そんな症状に悩まされているなら、それは「マイコプラズマ肺炎」の仕業かもしれません。マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマ・ニューモニエという特異な細菌によって引き起こされる呼吸器の感染症です。この細菌の最大の特徴は、一般的な細菌が持つ「細胞壁」を持たない点にあります。そのため、多くの細菌感染症に用いられるペニシリン系やセフェム系といった抗菌薬が全く効かないという厄介な性質を持っています。感染は主に、感染者の咳やくしゃみで飛び散った飛沫を吸い込むことで成立します。さらに、潜伏期間が二週間から三週間と非常に長いため、自覚症状がないまま感染を広げてしまう可能性があり、学校や家庭、職場などで集団感染を引き起こしやすいのです。この長い潜伏期間ゆえに、いつどこで感染したのかを特定するのは極めて困難です。主な症状は、発熱、頭痛、全身の倦怠感ですが、これらは比較的軽いことが多く、最も患者を苦しめるのは、痰の絡まない乾いた咳(乾性咳嗽)です。この咳は非常に頑固で、一度出始めると発作のように連続して起こり、体力を著しく消耗させます。熱が下がって全身状態が回復した後も、咳だけが三週間から四週間、時にはそれ以上続くことも珍しくありません。これは、マイコプラズマが気道の粘膜上皮を傷つけ、その修復に時間がかかることや、気道が過敏な状態になってしまうためと考えられています。子供や若年層に多いとされていますが、もちろん成人でも感染し、長引く咳に悩まされるケースは多数報告されています。単なる風邪のぶり返しだと自己判断せず、長引く咳は専門医に相談することが、苦しい症状から抜け出すための第一歩です。
しつこい咳はマイコプラズマという名の犯人かも