今回は、呼吸器感染症の専門家であるB医師に、診断が難しいとされるマイコプラズマ肺炎について、その注意点や最新の知見を伺った。まず、この病気が「風邪が長引いている」と誤解されやすいのはなぜでしょうか。「マイコプラズマ肺炎は、高熱や強い倦怠感といった典型的な肺炎の症状が出にくい『非定型肺炎』の代表格だからです。レントゲンを撮っても、肺炎像がはっきりと写らないことも多く、聴診でも異常が聴取しにくい。そのため、患者さんの訴える『乾いたしつこい咳』という臨床症状が、診断の最も重要な手がかりになります。熱が微熱でも、二週間以上咳が続く場合は、積極的にこの疾患を疑う必要があります」とB医師は語る。診断はどのように確定させるのでしょうか。「以前は血液検査で抗体価を測定するのが一般的でしたが、結果が出るまでに時間がかかるという欠点がありました。近年では、喉や鼻の奥の粘液からマイコプラズマの遺伝子を直接検出する『LAMP法』などの迅速検査キットが普及し、外来で三十分程度で結果がわかるようになりました。これにより、早期診断・早期治療開始が可能になったのは大きな進歩です」治療における最大の課題は何ですか。「やはり、マクロライド耐性菌の増加です。特に小児では耐性菌の割合が高く、成人の間でも徐々に増えています。マクロライド系の抗菌薬を三日から五日服用しても解熱や症状の改善が見られない場合は、耐性菌を疑い、テトラサイクリン系やニューキノロン系といった別の系統の薬への変更を検討します。ただし、テトラサイクリン系は歯への色素沈着、ニューキノロン系は関節への影響の懸念から、原則として小児への投与は慎重に行われます。この薬剤選択の判断が、臨床医の腕の見せ所とも言えます」最後に、読者へのアドバイスをお願いします。「咳は体からの重要なサインです。特に、痰の絡まない乾いた咳が長く続く場合は、安易に市販の咳止めで様子を見ないでください。咳止めは一時的に症状を抑えるだけで、原因となっている細菌を殺すことはできません。適切な抗菌薬治療を受けなければ、咳は長引き、体力を消耗し、社会生活にも影響を及ぼします。迷ったら、まずは呼吸器科や内科の専門医を受診してください。それが、つらい症状から抜け出すための最も確実な方法です」。
専門医が語るマイコプラズマ肺炎の診断と治療