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成長期の子供に見られるかかとの痛み
大人のかかとの痛みの多くが足底腱膜炎であるのに対し、特に10歳前後の活発な男の子に見られるかかとの痛みには、特有の原因が考えられます。それは「シーバー病(踵骨骨端症)」と呼ばれる成長期特有の疾患です。大人の骨と違い、成長期の子供のかかとの骨(踵骨)の後方には、骨が成長するための柔らかい軟骨部分「骨端線」が存在します。この部分は、まだ完全に固まっておらず、構造的に弱いのが特徴です。サッカーや野球、バスケットボールなど、走ったりジャンプしたりする動作を繰り返すスポーツに熱中している子供に多く発症します。これらの動作によって、かかとには地面からの繰り返しの衝撃が加わります。さらに、ふくらはぎの筋肉が収縮することで、アキレス腱を介してかかとの骨が強く引っ張られます。この「衝撃」と「牽引力」という二つのストレスが、まだ弱い骨端線とその周辺の軟骨に集中することで、炎症や微小な剥離が起こり、痛みを引き起こすのがシーバー病のメカニズムです。症状としては、運動中や運動後にかかとの後方や側面に痛みや腫れが現れます。押すと痛がる(圧痛)のも特徴的な所見です。大人の足底腱膜炎が朝の一歩目に強い痛みが出やすいのに対し、シーバー病は主に運動に関連して痛みが強くなる傾向があります。多くの場合は、成長が進み、骨端線が閉鎖する(骨が固まる)ことで自然に治癒していく一過性の疾患ですが、痛みを我慢して無理に運動を続けると、症状が悪化し、長期的にスポーツ活動を休止せざるを得なくなることもあります。したがって、「成長痛だから大丈夫」と安易に考えず、お子さんがかかとの痛みを訴えた際には、まずはスポーツ活動を休ませて安静を保つことが大切です。そして、早めに整形外科を受診し、正確な診断を受けることが重要です。治療は基本的に保存療法で、痛みが強い時期の安静、運動後のアイシング、ふくらはぎのストレッチ指導、衝撃吸収性の高いインソールの使用などが中心となります。適切な管理で乗り越えられる疾患であること、保護者の理解とサポートの重要性。
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日常生活でできる、ひどい脇汗のセルフケア
ひどい脇汗の悩みは医療機関での治療や制汗剤の使用だけでなく日々の「生活習慣」を見直すことでもその症状をある程度コントロールすることが可能です。体の中からそして外からのアプローチを組み合わせることでより快適な毎日を目指しましょう。まず見直したいのが「食生活」です。特定の食べ物が直接多汗症の原因となるわけではありませんが発汗を促進しやすい食品があることは事実です。例えば唐辛子に含まれるカプサイシンなどの「香辛料」や熱い食べ物は交感神経を刺激し発汗を促します。また肉類や乳製品といった動物性の「タンパク質」や「脂質」は体内で分解される際に多くの熱を産生するため体温を上昇させ汗をかきやすくする傾向があります。これらの食品を完全に避ける必要はありませんが汗をかきたくない大切な場面の前には少し控えるといった工夫が有効です。次に重要なのが「衣類の選び方」です。汗ジミが目立たないという消極的な理由だけでなく汗をかいても快適に過ごすための積極的な衣類選びを心がけましょう。通気性や吸湿性に優れた綿や麻といった「天然素材」の下着やシャツを選ぶのが基本です。また最近では高い吸湿速乾性を持つ機能性素材のインナーも数多く販売されています。これらを上手に活用することで汗をかいても肌をサラサラの状態に保つことができます。そして脇の下に直接貼り付けるタイプの「汗脇パッド」は汗ジミを防ぐ物理的な対策として非常に有効です。最後に見過ごせないのが「ストレス管理」です。ひどい脇汗の原因の一つである精神性発汗は不安や緊張によって悪化します。ヨガや瞑想、深呼吸あるいは趣味に没頭する時間を作るなど自分なりのリラックス方法を見つけ交感神経の過剰な興奮を鎮めてあげることが汗のコントロールに繋がります。
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マイコプラズマ感染症を家庭や職場で広げないために
マイコプラズマ肺炎は、その感染力の強さと潜伏期間の長さから、気づかないうちに家庭や職場、学校といった集団内で感染を広げてしまうリスクが高い疾患です。自分自身と周囲の人々を感染から守るためには、日頃からの予防意識と、感染が疑われる際の適切な行動が不可欠となります。予防の基本は、あらゆる感染症対策と同様に「手洗い」と「咳エチケット」の徹底です。外出先から帰宅した際、食事の前、トイレの後などには、石鹸と流水で指の間や手首まで丁寧に洗いましょう。すぐに手が洗えない状況では、アルコールベースの手指消毒剤が有効です。また、感染の流行期や人混みではマスクを着用することが、飛沫の吸い込みを防ぐ上で効果的です。咳やくしゃみが出る場合は、周囲への飛散を防ぐため、マスクは必須と考えましょう。マスクがない緊急時には、ティッシュやハンカチ、あるいは腕の内側で口と鼻をしっかりと覆うことがマナーであり、感染拡大防止に繋がります。もし家庭内に感染者が出てしまった場合は、さらなる対策が必要です。可能であれば、感染者は個室で休み、他の家族との接触を最小限に抑えます。看病は特定の人が担当し、部屋に入る際は必ずマスクを着用し、出た後には入念な手洗いを行いましょう。感染者が使用したタオルや寝具、食器類は、家族と共用しないようにします。食器は通常の食器用洗剤で、リネン類は洗濯機で洗えば十分ですが、分けて洗うとより安心です。ドアノブ、テーブル、電気のスイッチ、リモコンなど、皆が頻繁に触れる場所は、市販のアルコール除菌スプレーや次亜塩素酸ナトリウム溶液(家庭用漂白剤を薄めたもの)でこまめに拭き掃除をすると、接触感染のリスクを減らすことができます。そして、室内の空気が滞らないよう、一日に数回、窓を開けて十分な換気を行うことも忘れてはなりません。職場や学校においても、体調不良を感じたら無理して出勤・登校せず、自宅で休養し、必要であれば医療機関を受診するというルールを組織全体で共有することが、集団感染を防ぐ上で最も重要です。一人ひとりの小さな心がけが、大きな感染の波を防ぐための防波堤となるのです。
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大人が手足口病にかかったら仕事はどうする
大人が手足口病に感染した場合、日常生活、特に仕事への影響は深刻な問題となります。結論から言うと、症状が出ている間は仕事を休むべきです。手足口病は法律で定められた出席停止期間などはありませんが、感染を広げるリスクと、何より本人の体調を考えれば、出勤は現実的ではありません。まず、三十九度を超えるような高熱や強い倦怠感がある状態で、正常な業務を行うことは不可能です。無理して出勤しても、仕事の効率は著しく低下し、かえって周囲に迷惑をかけることになりかねません。さらに、喉の激痛は会話を困難にします。接客業や電話応対、会議など、声を出すことが求められる仕事では、業務に大きな支障が出ます。また、手のひらに痛みを伴う発疹が出ている場合、パソコンのタイピングやペンを持つことさえ苦痛になります。足の裏の発疹は歩行を困難にし、通勤自体が一苦労となるでしょう。感染症としての観点からも、休むことが推奨されます。ウイルスは回復後も、喉からは一週間から二週間、便からは三週間から五週間という長期間にわたって排出され続けます。特に症状が強く出ている急性期は、咳やくしゃみなどによる飛沫感染のリスクが最も高い時期です。職場での集団感染を防ぐためにも、責任ある社会人として自宅療養に専念すべきです。では、いつから出勤を再開できるのでしょうか。明確な基準はありませんが、一般的には、解熱し、口の中の痛みが軽快して普段通りの食事が摂れるようになり、全身状態が回復してから、というのが一つの目安になります。多くの場合は、発症から一週間から十日程度の休養が必要となるでしょう。職場には、手足口病と診断されたこと、感染症であること、そして症状が重く業務が困難であることを正直に伝え、理解を得ることが大切です。
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営業職Aさんを襲った繰り返すものもらい
Aさん(35歳、営業職)は、この半年間で三度もものもらいを発症し、すっかり滅入っていました。一度目は右目に、二度目は左目に、そして三度目は再び右目に。眼科で処方された目薬を使えば一週間ほどで治るものの、大切な商談の前に限ってまぶたが腫れるため、見た目の印象も気になり、仕事のパフォーマンスにも影響が出ていました。彼の仕事は、厳しいノルマと常に隣り合わせでした。新規顧客の開拓、既存顧客との関係維持、そして社内での報告業務。プレッシャーから夜遅くまで資料作成に追われることも多く、睡眠時間は常に不足気味。食事も移動中に急いで済ませることがほとんどで、栄養バランスなど考えている余裕はありませんでした。三度目のものもらいで眼科を訪れた際、医師から「最近、お疲れではないですか?生活が不規則だったり、ストレスが溜まっていたりしませんか」と問いかけられました。Aさんはハッとしました。確かに、この半年は特に仕事のプレッシャーが強く、心身ともに休まる時がなかったのです。医師は、ものもらいが免疫力の低下によって引き起こされること、そしてその背景にはストレスや生活習慣の乱れが大きく関わっていることを丁寧に説明してくれました。「薬で炎症を抑えることはできますが、根本的な原因である生活を見直さないと、また繰り返しますよ」という言葉が、Aさんの胸に響きました。その日から、Aさんは意識的に生活を変える努力を始めました。まずは、どんなに忙しくても夜十二時までにはベッドに入ることを自分に課しました。昼食は、デスクでパンをかじるのをやめ、十五分でも良いから外に出て、定食屋でバランスの取れた食事を摂るようにしました。そして、週末は仕事のことを一切考えず、趣味である釣りに没頭する時間を作りました。最初は小さな変化でしたが、数週間もすると、朝の目覚めが良くなり、日中の集中力も高まっていることに気づきました。そして何より、あれほど彼を悩ませていたものもらいが、ぱったりとできなくなったのです。Aさんは、まぶたのトラブルを通して、心と体の健康が仕事の資本であることを痛感したのでした。
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痛みが引かない時の次の一手とは
セルフケアを続けてもかかとの痛みが一向に改善しない、あるいは日常生活に支障が出るほどの激しい痛みが続く場合、それは医療機関の助けを借りるべきサインです。長引く痛みは、単なる足底腱膜炎ではなく、他の疾患が隠れている可能性も否定できません。例えば、レントゲン検査で「踵骨棘(しょうこつきょく)」と呼ばれるかかとの骨のトゲが見つかることがあります。この骨棘自体が直接痛みの原因となることは稀ですが、足底腱膜に長期間ストレスがかかり続けている証拠とは言えます。また、疲労骨折や、まれに関節リウマチなどの全身性の疾患、神経の障害が痛みの原因である可能性も考慮する必要があります。整形外科を受診すると、まずは問診や触診、レントゲン検査が行われ、必要に応じて超音波(エコー)検査やMRI検査で炎症の程度や腱の状態をより詳しく評価します。治療法としては、保存療法が基本となります。一般的なセルフケアに加えて、専門家の指導のもとで行う理学療法が中心となります。理学療法士は、個々の患者の身体の状態を評価し、より効果的なストレッチや筋力トレーニングの指導、歩行パターンの修正などを行います。痛みのコントロールのためには、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の飲み薬や湿布薬が処方されることもあります。これらで改善が見られない難治性の場合には、より進んだ治療法が検討されます。患部に直接ステロイドを注射する方法は、強力な抗炎症作用で短期的に痛みを抑える効果が期待できますが、腱を脆くするリスクもあるため慎重な判断が必要です。近年注目されているのが「体外衝撃波治療」です。これは、患部に高エネルギーの圧力波を照射することで、痛みを伝える神経の働きを鈍らせ、組織の修復を促す治療法です。また、患者自身の血液から成長因子を豊富に含む成分を抽出し、患部に注射するPRP療法なども選択肢の一つです。手術が必要となるケースは非常に稀ですが、保存療法を半年以上続けても全く効果がなく、生活に大きな支障が出ている場合には、最終的な手段として検討されることがあります。諦めずに専門家と相談し、自分に合った治療法を見つけることが大切です。
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ストレスが引き金になるものもらいの仕組み
まぶたが赤く腫れて、瞬きをするたびにゴロゴロとした違和感や痛みがある。多くの人が一度は経験したことのある「ものもらい」ですが、その原因を単なる細菌感染だと考えてはいないでしょうか。もちろん、直接的な原因はまぶたにある分泌腺への細菌感染や詰まりです。しかし、なぜか仕事が忙しい時期や、大きな悩みを抱えている時に限って、ものもらいができてしまう。そう感じたことがあるなら、それは気のせいではありません。ストレスは、ものもらいの発症における重要な「間接的な原因」となり得るのです。ものもらいには、主に二つの種類があります。一つは、まつげの根元にある汗腺や皮脂腺に細菌が感染して起こる「麦粒腫(ばくりゅうしゅ)」。まぶたが赤く腫れ、ズキズキとした痛みを伴うのが特徴です。もう一つは、まぶたの内側にあるマイボーム腺という脂の分泌腺が詰まって、しこりのようなものができる「霰粒腫(さんりゅうしゅ)」です。こちらは通常、痛みはあまりありません。これらの発症の背景には、私たちの体の防御システムである「免疫力」が深く関わっています。健康な状態であれば、皮膚の常在菌であるブドウ球菌などが多少付着しても、免疫機能が働いて感染を防いでくれます。しかし、私たちは精神的なストレスや過労、睡眠不足といった負荷がかかると、自律神経のバランスが乱れ、免疫機能が低下してしまいます。ストレスホルモンとも呼ばれるコルチゾールの過剰な分泌が、免疫細胞の働きを抑制してしまうのです。免疫力が低下した状態では、普段なら何でもないはずの細菌が簡単に感染を起こし、麦粒腫を引き起こします。また、自律神経の乱れはホルモンバランスにも影響を与え、マイボーム腺からの脂の分泌が過剰になったり、粘度が高まったりして腺が詰まりやすくなり、霰粒腫の原因となるのです。つまり、ストレスは、ものもらいという火事が起きやすいように、乾燥した燃えやすい土壌を作り上げてしまうようなもの。まぶたの不調は、体が発する「心と体の休息が必要だ」というSOSサインなのかもしれません。
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しつこい咳はマイコプラズマという名の犯人かも
風邪でもないのに、コンコンと乾いた咳だけが止まらない。特に夜中や明け方に激しく咳き込んで目が覚めてしまう。熱は微熱程度で体もそこまで辛くはないのに、とにかくこの咳だけが二週間以上も続いている。もし、そんな症状に悩まされているなら、それは「マイコプラズマ肺炎」の仕業かもしれません。マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマ・ニューモニエという特異な細菌によって引き起こされる呼吸器の感染症です。この細菌の最大の特徴は、一般的な細菌が持つ「細胞壁」を持たない点にあります。そのため、多くの細菌感染症に用いられるペニシリン系やセフェム系といった抗菌薬が全く効かないという厄介な性質を持っています。感染は主に、感染者の咳やくしゃみで飛び散った飛沫を吸い込むことで成立します。さらに、潜伏期間が二週間から三週間と非常に長いため、自覚症状がないまま感染を広げてしまう可能性があり、学校や家庭、職場などで集団感染を引き起こしやすいのです。この長い潜伏期間ゆえに、いつどこで感染したのかを特定するのは極めて困難です。主な症状は、発熱、頭痛、全身の倦怠感ですが、これらは比較的軽いことが多く、最も患者を苦しめるのは、痰の絡まない乾いた咳(乾性咳嗽)です。この咳は非常に頑固で、一度出始めると発作のように連続して起こり、体力を著しく消耗させます。熱が下がって全身状態が回復した後も、咳だけが三週間から四週間、時にはそれ以上続くことも珍しくありません。これは、マイコプラズマが気道の粘膜上皮を傷つけ、その修復に時間がかかることや、気道が過敏な状態になってしまうためと考えられています。子供や若年層に多いとされていますが、もちろん成人でも感染し、長引く咳に悩まされるケースは多数報告されています。単なる風邪のぶり返しだと自己判断せず、長引く咳は専門医に相談することが、苦しい症状から抜け出すための第一歩です。
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専門医が語るマイコプラズマ肺炎の診断と治療
今回は、呼吸器感染症の専門家であるB医師に、診断が難しいとされるマイコプラズマ肺炎について、その注意点や最新の知見を伺った。まず、この病気が「風邪が長引いている」と誤解されやすいのはなぜでしょうか。「マイコプラズマ肺炎は、高熱や強い倦怠感といった典型的な肺炎の症状が出にくい『非定型肺炎』の代表格だからです。レントゲンを撮っても、肺炎像がはっきりと写らないことも多く、聴診でも異常が聴取しにくい。そのため、患者さんの訴える『乾いたしつこい咳』という臨床症状が、診断の最も重要な手がかりになります。熱が微熱でも、二週間以上咳が続く場合は、積極的にこの疾患を疑う必要があります」とB医師は語る。診断はどのように確定させるのでしょうか。「以前は血液検査で抗体価を測定するのが一般的でしたが、結果が出るまでに時間がかかるという欠点がありました。近年では、喉や鼻の奥の粘液からマイコプラズマの遺伝子を直接検出する『LAMP法』などの迅速検査キットが普及し、外来で三十分程度で結果がわかるようになりました。これにより、早期診断・早期治療開始が可能になったのは大きな進歩です」治療における最大の課題は何ですか。「やはり、マクロライド耐性菌の増加です。特に小児では耐性菌の割合が高く、成人の間でも徐々に増えています。マクロライド系の抗菌薬を三日から五日服用しても解熱や症状の改善が見られない場合は、耐性菌を疑い、テトラサイクリン系やニューキノロン系といった別の系統の薬への変更を検討します。ただし、テトラサイクリン系は歯への色素沈着、ニューキノロン系は関節への影響の懸念から、原則として小児への投与は慎重に行われます。この薬剤選択の判断が、臨床医の腕の見せ所とも言えます」最後に、読者へのアドバイスをお願いします。「咳は体からの重要なサインです。特に、痰の絡まない乾いた咳が長く続く場合は、安易に市販の咳止めで様子を見ないでください。咳止めは一時的に症状を抑えるだけで、原因となっている細菌を殺すことはできません。適切な抗菌薬治療を受けなければ、咳は長引き、体力を消耗し、社会生活にも影響を及ぼします。迷ったら、まずは呼吸器科や内科の専門医を受診してください。それが、つらい症状から抜け出すための最も確実な方法です」。