手足口病の激しい症状がようやく治まり、普段の生活に戻り始めた頃、多くの人が経験するのが「爪の剥がれ」という後遺症です。発症から一ヶ月から二ヶ月ほど経った頃、何の予兆もなく手や足の爪が根元から浮き上がり、自然に剥がれ落ちてしまうのです。この現象は「爪甲脱落症(そうこうだつらくしょう)」と呼ばれ、特に手足口病の原因となるウイルスの中でも、コクサッキーウイルスA6型が流行した年に多く報告されています。初めて経験すると、非常に驚き、何か悪い病気ではないかと不安になるかもしれませんが、これは手足口病の後遺症としては比較的よく見られるもので、過度に心配する必要はありません。なぜ爪が剥がれるのか、その正確なメカニズムはまだ完全には解明されていません。しかし、有力な説としては、手足口病による高熱や強い炎症が、爪を作る組織である「爪母(そうぼ)」の働きを一時的に停止させてしまうためと考えられています。爪母の活動が一時的にストップすることで、その期間に作られるはずだった爪が欠損し、新しく生えてくる爪との間に隙間ができてしまうのです。その結果、古い爪が押し出されるようにして剥がれ落ちます。通常、この爪の剥がれ自体に痛みはありません。爪が浮き上がってきたら、無理に剥がそうとせず、何かに引っかかって剥がれてしまわないように注意しましょう。絆創膏やテープで保護しておくのがおすすめです。自然に剥がれ落ちるのを待つと、その下にはすでに新しい健康な爪が再生されています。すべての爪が生え変わるまでには数ヶ月かかりますが、基本的にはきれいに元通りになります。ただし、剥がれた後の爪が変形したり、痛みや感染の兆候が見られたりする場合は、皮膚科を受診するようにしてください。