市販の制汗剤やセルフケアだけではコントロールが難しいひどい脇汗、すなわち「原発性腋窩多汗症」。この悩みに対して医療機関では保険が適用されるものも含め非常に効果的な専門的な治療法が確立されています。一人で悩まず専門医に相談すればあなたのQOL(生活の質)を劇的に改善できる可能性があります。まず現在日本の保険診療で第一選択として推奨されている治療法が二つあります。一つが「外用薬(塗り薬)」です。2020年に登場した「エクロックゲル」や2022年に登場した「ラピフォートワイプ」は汗を出す指令を伝える神経伝達物質(アセチルコリン)の働きを汗腺のレベルでブロックする新しいタイプの塗り薬です。毎日一回脇に塗る(または拭く)だけで汗の量を効果的に抑えることができます。もう一つの非常に効果的な治療法が「ボツリヌス療法(ボトックス注射)」です。これはボツリヌス菌が作り出す天然のタンパク質を脇の皮下に注射する方法です。このタンパク質もアセチルコリンの放出を強力にブロックすることで汗の分泌を数ヶ月間にわたって劇的に抑制します。効果の持続期間は個人差がありますが、おおよそ4ヶ月から9ヶ月程度です。効果が切れれば再度注射が必要となりますが重度の多汗症に対しては保険適用も認められています。これらの保険診療で効果が不十分な場合やより根治的な治療を望む場合には自費診療の選択肢も存在します。その代表が「マイクロ波治療(ミラドライなど)」です。これは皮膚の上からマイクロ波を照射しその熱エネルギーで汗腺そのものを破壊する治療法です。皮膚を切開する必要がなく体への負担が少ないながら半永久的な効果が期待できるとして近年非常に人気が高まっています。その他より確実な効果を求める場合には交感神経を胸部で切断する「胸部交感神経遮断術(ETS)」という手術もありますが代償性発汗(他の部位の汗が増える)という副作用のリスクも伴います。どの治療法が最適かはあなたの症状の重症度やライフスタイルによって異なります。皮膚科や形成外科の専門医とよく相談し納得のいく治療法を選択することが大切です。