風邪をひいた時に感じる、皮膚の表面の、ヒリヒリ、ピリピリとした痛み。その主な原因は、ウイルスと戦うために、私たちの体が作り出す「サイトカイン」という物質が、引き起こす、一種の“副作用”であると考えられています。サイトカインは、免疫細胞同士が、情報をやり取りするために使う、いわば「伝令役」のタンパク質です。「敵(ウイルス)が侵入したぞ!」「ここに集まれ!」「熱を出して、敵の動きを封じろ!」といった、様々な指令を、体中に伝達します。この、免疫システムの、見事な連携プレーに、不可欠な存在です。特に、ウイルス感染の初期に、重要な役割を果たすのが、「インターフェロン」という種類のサイトカインです。インターフェロンは、ウイルスに感染した細胞が、周囲のまだ感染していない細胞に対して、「ウイルスが来たぞ!防御態勢を整えろ!」という、警告シグナルを発信させ、ウイルスの増殖を、強力に抑制する働きがあります。この働きによって、私たちは、多くのウイルス感染症から、守られているのです。しかし、この、体を守るためのインターフェロンが、時に、私たちの「神経系」にも、影響を及ぼすことがあります。インターフェロンをはじめとする、いくつかのサイトカインには、痛みを感じる神経(知覚神経)を、過敏にさせる作用があることが、分かっています。つまり、神経の「感度」を、異常に高めてしまうのです。その結果、普段であれば、全く痛みとして感じられないような、ごく弱い刺激、例えば、衣服が肌に触れる摩擦や、シーツの感触、あるいは、そよ風が肌をなでるといった、些細な刺激さえもが、脳に「痛み」のシグナルとして、伝えられてしまいます。これが、風邪のひきはじめに、熱はまだ出ていないのに、皮膚の表面だけが、なぜか痛く感じる、という現象の正体です。この状態は、「アロディニア(異痛症)」と呼ばれ、痛みを感じる仕組みそのものが、一時的に、変調をきたしている状態と言えます。この皮膚の痛みは、ウイルスと戦うための、免疫反応が、活発に行われている証拠でもあります。通常は、風邪の回復と共に、サイトカインの産生が収まり、神経の過敏性も、自然と正常に戻っていきます。